猿啼奥出雲集

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霜むすぶ夕べの人のよすがにもひとり眺める有明の月

星流れ願ひかけたる雁金の宵闇に消ゆよその玉梓

かりそめの田の面の人は秋風か今日はいづこの稲穂吹くらむ

紫陽花によそふるつゆも知らぬ間にかれてむなしき夏の恋かな

さみだれて今朝も枕に目覚めれば移ろひにけり雨の橘

夢見てもやがて消ぬべき露なればやむことなかれ夏の村雨

忘れなむ昔の人の音絶えて夕暮れとほく匂ふ橘

解けにけり君と交わしたシロツメクサひもゆふ暮れの風に乱れて

春の夜の絶えて雨音なかりせばものは思はで暮るるものかは

秋風の染みる枕に影落ちて離れにし人の夢にだに見む

群たちぬ宵の雨音数ふれば思わぬ人を忘れやはする

月影のおもひおこせる一人寝はゆめの枕に匂ふたちばな

時雨降る迷いの袖は恋あせて匂ふあたりは木犀の風

トワイライト後朝の色は忘れじとたびを重ねし思い出とせむ

行方なく永遠になかるる涙川せき留めなん青色の薔薇

長雨のふるえる身体包まなむ過ぎさりし日と記憶の薔薇に

来ぬ人の姿は涙にかすれども記憶に描いた薔薇は忘れじ